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あの日は晴天だった。
雲は真っ白なのが1つ2つ、本当にいいお天気で、マナは朝からすっごく機嫌が良かったっけ。
私は、あの子のために用意した、白いレースのリボンを隠しておいて、お母さんとケーキを焼いていた。あの子の大好きな、チョコレートケーキ。作ってる途中で抱きついてきたり、周りをちょろちょろしたりして、ホントにもう、しょうがない子なんだからって思いながら、3人で笑ってた。

あのチョコレートケーキ、まだオーブンの中だったかしら。







ケーキは冷めないように、まだオーブンの中に入れていおいてね、ってお母さんが言った。
楽しみだなぁって、マナは椅子の上でぴょんぴょん跳ねたから、行儀悪いでしょって、おでこを軽くたたいてやったっけ。ぷくってほっぺを膨らませたけど、またすぐに満面の笑顔になって、でもいいんだー、今日はマナの誕生日だもん、って、本当にうれしそうな顔をしてた。

お母さんが作ってくれたサラダも、ローストチキンも、南瓜のプディングも、どれも本当においしそうで、マナはつまみ食いしようとばっかりするから、お父さんが帰ってきたらって言ってるでしょ、ってお母さんにぴしゃりと言われて、えへへ、って笑ってた。

夕暮れの赤が部屋に差し込んで、隣の家のユノと、教会の近くのリナリーが自分の家へ帰ってく声がした。
2人がマナにってくれた、白い小鳥の置物も、私のプレゼントと一緒に隠してあったんだ、私のベッドの中にね。ユノは一人っ子だし、リナリーは5人兄弟の末っ子だから、マナを妹みたいに可愛がってた。私にもお兄ちゃんかお姉ちゃんがいたらなって、よく思ってたなぁ。


お日様がほとんど沈んで、紫がかった雲が広がっても、父さんはまだ帰ってこなくて、マナはすっかりご機嫌ななめだった。ほんのちょっと、ううん、だいぶ寂しそうな顔で、ぱぱのばか、って呟いてた。
ローストチキンを温めなおしてた頃、遠くで何かの音がした。狼が出たときのヒツジの声みたいな、甲高くて不安になる音。お母さんが、何かしらって言って、窓に近づいた。でも、外は暗くてよく見えなかった。曇ってるみたいで、星も見えないぐらいだった。
ちょっと離れた小屋にいる馬や牛の嘶きが、かすかに聞こえてきた。お母さんがそわそわして、お父さんどうしたのかしらって呟いた。マナはご馳走にも手をつけずに、テーブルに突っ伏していじけていたの。
私も、どうしていいかわかんなくて、おろおろするばかりだった。


あたりがすっかり暗くなるころ、馬の足音がした。マナが飛び起きてドアまで走って、お母さんがほっとしたような顔をして、私はお腹がすいてたことを思い出した。
ドアが勢いよく開くのと同時に、お父さんが逃げろって、叫んだんだ。お母さんもマナも私も、お父さんがなんで逃げろなんて言っているのか分からなくて、ぽかんとしてしまった。マナがお父さんのマントを引っ張って、ぱぱ、今日はマナの誕生日だよって言ったら、お父さんはマナを片手で抱き上げて、裏口から逃げるんだって、私とお母さんに叫んだ。

その次の瞬間、ドアが砕け散った。

木の破片がお父さんにかかって、その向こうに、見たこともない大男が立ってた。変な仮面をつけて、手には大きなナイフが2本、光ってた。
お母さんが悲鳴を上げて、お父さんがマナをお母さんの方に放って、剣を抜いて大男に立ち向かった。お父さんは逃げろってだけ叫んで、大男に切りかかった。お母さんはマナを抱えて、私の名を呼んで、裏口へ走った。私も我に返って走りだして、お父さんも逃げなきゃって、お父さんの方を振り返った。


お父さんはね、普通のヒトだったから。普通の人だったけど、城塞騎士で、責任感が強くて、正義感にあふれてて、私の自慢だったから。

私の自慢のお父さんから、血が噴出して倒れるところなんて、見たくなかったよ。



私がお父さん、って叫んで立ち止まったら、仮面の大男がゆっくり私の方を見たの。・・・怖かった。私の足は、私の意志じゃ動かなくなってた。
お母さんが私の腕をぐいって引っ張って、ようやく我に返った。仮面の大男は、私たちに向かって一歩踏み出したところだった。お母さんがマナと私を急かして、私はマナを両腕に抱えるようにして走った。マナはぐしゃぐしゃに泣いてた。パパ、パパ、ってずっとパパを、呼んでた。
私が裏口のドアを開けて、外に出た。お母さんが、とんっ、て背中を押すのが分かったの。あぁお母さん、外に出ればきっと大丈夫、助けを呼んでこよう。


ドアのしまる音が、すぐ後ろで聞こえた。
その一拍後に、短い叫び声が聞こえた。
そして、倒れる音が聞こえた。

裏口のドアが、ゆっくり、開いた。
そこに立ってたのは、仮面の大男だった。
裏口のドアには、赤い血が、ほとばしってたの。

お母さんの血は、赤かった。




マナが何か叫んで、私の腕から抜け出して走り出そうとして、我に返ったの。
だめ、そっちへ行っちゃだめ、って必死でマナの後を追って、両腕でその体を抱きしめた。
また抜け出そうと、マナがもがくのが分かった。その小さくて大きい力が、ふいに、抜けたの。
マナの目から、大粒の涙がいっぱいこぼれてて、そして、血が、血がね、吹いて、た。






マナの胸を一文字に裂いた傷から、私の腕からも一緒に、血を拭いてた。
痛くなかったよ、だってマナの方がずっと痛かっただろうから。

マナの瞳から、雫が私の腕にこぼれて、それが、傷にしみて、私も涙が出た。

マナは、そのまま何も言わないで、ぐったり、力を失った。



それからの記憶、ちょっと曖昧なの。
でも、きっとエンドブレイカーの人だと思う。誰かが仮面の大男を倒して、私は救われたんだと思う。
私が生まれ育った穏やかな村は、ほとんどの人が殺されて、静かになった。

私、あのまま村には居られなかった。辛いことしか思いださないんだもん。まいっちゃうよね。


それで、着の身着のまま、あてもなくふらふらしてた。森を越えて、町に着いて、海を見て、街に着いた。
一週間ぐらいだったと思う、食べ物もろくに食べないで、さすがに疲れちゃって、下層の街で、崩れかけた建物からこぼれる日差しがあったかくて、そのまま、寝ちゃったの。



気づいたら、ベッドの上だった。あったかい部屋で、ポットのお湯から出る湯気が、しゅんしゅん音を立ててた。少し湿った空気がのどに優しくて、木のにおいがした。
懐かしい、あったかい家の音とにおいだった。


そうして私、孤児院に住ませてもらうことになったの。





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以上、ニアの家族のお話でしたー。俺にしては珍しく、ちょっと長めかもしれない。
なんか語り口調になっちゃったのは、ノリです。書いてたら初めからそうだったんです。ラクです、この書き方。

ティフラムの方が設定先に出来てたんだけど、すらすら書けたのはニアでしたね。なんなんだこれ。


またそのうち、何か書き始めるかもしれません。
2608文字の変な文章、読んでくださった方お疲れ様です。糖分とってお休みになってください←
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